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福岡高等裁判所 昭和36年(ラ)121号 決定

抗告人 芳野秀子 外一名

主文

本件競落許可決定を取消す。

本件を福岡地方裁判所飯塚支部に差し戻す。

理由

本件抗告の理由は別紙記載のとおりである。

一件記録及び申立書添付の疏明資料によると、本件競売不動産中の宅地三筆即ち(イ)飯塚市菰田字今宮二七三番地の二、宅地一五坪七合二勺(ロ)同所字同二七二番地の二宅地二七坪三合、(ハ)同所字同二六四番地の一宅地五一坪七合八勺については昭和三十五年四月八日執行裁判所が不動産競売手続開始決定をなした後である同年六月六日土地区画整理法の換地処分によりその旨の登記手続がなされ、従前の(イ)の土地は一、宅地四三坪二合七勺(ハ)の土地は一、宅地四〇坪三合二勺(所有者は申立外宮本兵助と表示されている。)となり、而もその宅地の位置、形状を異にしていることが認められる。

かような場合には換地処分後の宅地につき競売手続を進行すべきものであるにかかわらず、執行裁判所はその後の右宅地の鑑定競売期日の公告及び競売期日等一連の競売手続においてはいずれも換地前の宅地の表示に従い、右換地処分後の実情を考慮した形跡は記録上認められない。

そうすると本件競売期日の公告には適式な不動産の表示を欠き、債務者又は所有者である抗告人等の利益を害することになるので本件競落許可決定は許すべからざるものである。

よつて原決定を取消して本件を執行裁判所に差し戻すこととし主文のとおり決定する。

(裁判官 中村平四郎 丹生義孝 岩崎光次)

申立の理由

一、右事件の競売は昭和三六年五月一一日午前一〇時に開始せられたものであるが、競売期日の通知書が債務者兼所有者たる申立人芳野秀子に対し送達されないまま実施せられている。

競売期日の通知が債務者に対してなされずして競売がなされたとしても右競売は無効である。従つて競落は許されないものである。

二、本件において競売に附せられた建物及び土地のうち後者即ち

〈イ〉飯塚市菰田字今宮二七三番地の二

一宅地一五坪七合二勺

〈ロ〉同所 二七二番地の二

一宅地二七坪三合

〈ハ〉同所 二六四番地の一

一宅地五一坪七合八勺

の三筆の土地については、昭和三五年六月六日土地区画整理法の換地処分がなされ

〈イ〉の土地は

一宅地四三坪二合七勺となり

〈ロ〉の土地は

一宅地四〇坪二合二勺となつているが、

その所有者が申立外宮本兵助の所有となつている。

のみならず、その位置、形状を全く異にしている。「宅地八八坪なるに拘らず八〇坪と表示した」ときは「公告に適法な不動産の表示をしないことに帰する」との大審院判例(昭和五年一月一三日昭和四年(リ)第一八二号不動産競売実務総攬水本著二九九頁)すらあり本件の場合の如く、土地の坪数位置、形状、所有者の異動があつてその同一性を全く欠缺した土地を彼此同一視して競売がなされたとしても無効である。

三、以上の通り本件競売期日に於てなされた前記競売は無視することのできない重大な瑕疵があるのでその取消の御決定を求めるため本申立に及んだ次第である。

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